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中国国家統計局が16日発表した2021年1~3月期の実質国内総生産(GDP、速報値)は前年同期比18・3%増と大きく伸びた。中国経済の持ち直しは、中国に輸出したり現地に製造拠点があったりする日本企業にとり追い風だ。ただ、新たなリスクとして、新疆(しんきょう)ウイグル自治区をめぐる人権問題が浮上。取引先などがウイグル族を強制労働させていれば、日本企業は取引停止などの厳しい姿勢をとる方針だ。これに対し、中国側からは“報復”に不買運動を起こされ、厳しい状況に追い込まれる可能性がある。
リスクは人権
中国経済の改善は、年初に国内でコロナの再流行を押さえ込んだことが大きい。ロボットなどの工業生産や工場などへの投資は2割以上増加。3月の消費の動きを示す指標も3割以上伸びた。
日本企業の回復も後押しされ、中国への輸出が全体にしめる割合の大きい関西企業にはとくに恩恵がある。
日本銀行が今月15日発表した4月の「地域経済報告(さくらリポート)」では、「中国向けは、インフラ投資の加速を受け建設用機械関連が増えている」(神戸の機械メーカー)との声が上がった。電子部品大手の村田製作所は中国が牽引(けんいん)し、令和3年3月期の通期業績予想は、本業のもうけを示す営業利益を約2900億円と過去最高益を見込んでいる。
だが、先行きには新しいリスクが浮上してる。少数民族ウイグル族への弾圧をめぐる問題だ。日本企業も、サプライチェーン(供給網)のどこかの段階にいる中国企業がウイグル人を強制労働させていれば、批判を浴びることになる。
世界で80社超?
昨年、オーストラリア戦略政策研究所が公表した報告書によると、世界の有力企業80社超が、ウイグル族の強制労働に関与した中国の工場と取引していたという。在日ウイグル人で作る日本ウイグル協会と国際人権団体ヒューマンライツ・ナウは、報告書で名前の挙がった日本企業計14社に対して今後の対応などを調査し、結果を公表した。
回答したのはパナソニックを除く13社。各社は強制労働の疑いが指摘された企業との直接取引を否定するか、取引先の強制労働を確認できなかったとし、今後取引先で人権侵害が発覚すれば、大半が取引を停止すると説明した。
パナソニックは締め切りまでに回答がなく、電話で対応を促したが「担当部署に伝える」としたまま、その後も回答がないという。パナソニックは15日の産経新聞の取材に対しても、回答しない姿勢を示した。
一方、調査に回答したシャープは産経新聞の取材に対し、「これまで調査した限りでは、取引先での強制労働などの事実は確認していない」としたうえで、「社の方針としても強制労働などの人権侵害を許容していない。今後そうした事実が取引先で判明した場合は断固として是正を求め、改善されない場合は取引停止などの対応も検討する」と説明した。
問題は、今後、人権侵害が判明し、日本企業が中国企業との取引停止などに踏み切った場合、中国で不買運動が起きる可能性があることだ。
これまでにスウェーデンの衣料小売り大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)がウイグル問題に懸念を示し、ウイグル産の最高級綿「新疆綿」の調達を停止したと表明。すると、中国共産党下部の共産主義青年団などが会員制交流サイト(SNS)でH&M製品を買わないよう呼びかけ、不買運動が広がった。
日本企業も断固たる措置をとれば、同じ状況に追い込まれる恐れがある。
板挟み
だが、不買を避けるため人権問題に後ろ向きな対応をとれば、中国以外の海外諸国や日本国内の消費者、市場がそっぽを向くのは不可避。まさに「板挟み」だ。
りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「日本企業は難しい対応を迫られる。中国企業との取引をやめる場合、取引規模に応じてだが、時間をかけて生産などの代替先を見つけなければならないだろう」とする。
その上で、「そもそも(強制労働があるかの)事実関係の確認を中国側に頼らざるをえず、情報をどこまで正確につかめるかという問題がある」とする。日本企業が把握していない事実が後で判明すれば、対応が後手に回り、さらに批判が強まりかねない。
中国をめぐるリスクとしては「米中摩擦や新型コロナ、南シナ海や台湾をめぐる問題などもある」(荒木氏)。「中国頼み」の日本企業だが、数々のリスクが足元を不安定にしている。
筆者:山口暢彦、山本考志(産経新聞)